「近年、カイロでの入国審査において片道航空券での入国が認められず、
強制送還になるケースが多発しております。お客さまご自身で責任が
取れるようでしたら、ご搭乗していただくこともできますが……」。
成田空港エティハド航空のカウンターで係の女性にそう告げられ、
一瞬青ざめた。正直、そういう考えが抜け落ちていたから。
一切の責任は自分にあるという同意書にサインをして、
搭乗させてもらえることになった。
でも、よくよく考えたら、私には南アフリカからの帰りの航空券があった。
その搭乗日は、エジプトのVISAの有効期間よりも早くにやって来る。
これがあれば、入国審査官も説得することができるはず。
……とは思っていたけど、やっぱりなんとなく不安を抱えての空の旅となった。
アブダビを経由し、カイロに着いたのは、翌日のお昼すぎ。
VISAのシールを買い(25ドル)、入国審査のレーンに並ぶ。
レーンは全部で3つあった。
どの係の顔を見ても、なんだかぬるそう。
エジプト人というのは、そういう国民性なのである。
大丈夫だ、とほぼ確信した。
そして、案の定、帰りの航空券のことなど一切聞かれることなく、
無事に入国できた。
空港を出ると、近くのバスターミナルまで連れて行ってくれるバスに乗った。
バスターミナルにはあまり人がいなかった。
空港に、私が行きたい場所のことを知っている人がいて、
とりあえずタフリールに行けばいい、
と言われたのでタフリールに向かうバスに乗った。
タフリールに近づくと、バスの係の人に聞かれた。
「タフリールのどこに行けばいい?」
そう聞かれても、タフリールがどの辺にあるかなんてスッカリ忘れていたし、
とにかくどこでもいいから降ろしてもらうしかなかった。
行けばわかるだろうと思っていたのに、見覚えのない場所だった。
どこにいるのかもわからなかったのでタクシーで行くことにした。
目指すはサファリ・ホテルの入ったビル。
そのビルの中にある3つのホテルのどれかに泊まろうと思っていた。
充電の切れかかったスマホを取り出し、
住所をタクシーの運転手に伝える。
しまった。
誰かのブログからコピペしたものだが、
これはサファリ・ホテルの前の小さなスーク(市場)の名前で、
みんながみんな知っているものではない。
しかし、タクシーの運転手さんは機転を効かせてくれ、
周りの同業者にその場所を聞いてくれ、
向かってくれることになった(20ポンド、ちょっと奮発気味)。
さすがに見覚えのある場所を通るかと思いきや、一度も通らず、
「あそこが、スークだ。手前のこの通り、一方通行だから歩いて行ってくれ」
と目的地手前で降ろされた。
ドキドキしながら、その通りを曲がると、
懐かしい光景が広がっていた。
いつも買い出していた店、サンドイッチ屋さん、シーシャのカフェ、
スーク・タウフィケーヤの店たち。
興奮しながら、あのビルに近づくと、入り口には、
なんと、10年前と変わらずレモン屋のおじさんがいた!
薄暗いビルの中。
10年前すでに年季が入って汚かった螺旋階段だけど、
更に年季が入っている様子。
イギリス統治時代からの手つかずの建物だ。
10年前もすでに壊れていたエレベーターは、更に厚くホコリを被っている。
今回はしんどいから2階の「スルタン・ホテル」にしようかと、
入り口を入りかけたけど、やっぱり他も見てみようと階段を上った。
サファリ・ホテルの1つ下の宿、「ベニス細川家ホテル」に入ってみる。
ドミトリーの部屋は、なんとクーラーが付いていた。
部屋もきれいだし、あの頃のサファリ・ホテルを思い浮かべると
天国のような場所だった。もうここにしようと、決めてしまった。
チェックインした後、やっぱり気になって、
更に階段を上り「サファリ・ホテル」に行ってみた。
……ん?
なんか全然違う!
この時間ならレセプションの広間には、
沈没中の旅行者がたむろしていて、新顔をいじっているはずだ。
しかし、……レセプションのレイアウト自体が変わっている。
人が集えるような感じではない。
壁に色が塗られて、きれいになっている……けど、なんか圧迫感。
もっと驚いたのは、ドミトリーの部屋にクーラーが付いていること。
Wi-Fiも使えるし、朝食も付いているそうだ。
1泊35ポンドらしい。
10年前は12ポンドだったから、かなりのランクアップだ。
シャワーやトイレもすごくきれいになっていた。
オーナーも変わったみたいだ。
「アッラーフ・アクバル」
しばらくすると、アザーンが聞こえて来た。
イスラムの礼拝の合図で、イスラム圏では1日5回
近くのスピーカーからこのアザーンが聞こえて来る。
そのままビルを降りて、スーク・タウフィケーヤを歩く。
「ARIGATO!」
「HELLO! HOW ARE YOU?」
声が掛かるわ、掛かるわ。
そこに来るまで上品なエジプト人しか会わず、拍子抜けしていたけど、
やっぱりエジプト人は少しウザいくらいが「らしい」んだよな!
……とテンションが上がりながら、西日のきつい7月26日通りまで歩いてみた。
何軒かは変わらない佇まいの店をみつけた。
そのままよく行っていたシーシャのカフェに行ってみた。
同じスタッフがいた。
月日が経てども変わらないものを見るとなんだか安心する。
アップルフレーバーのシーシャを吸い、
鼻から煙を吐いたら小さい子どもにジロジロ見られた。
10年という歳月に思いを馳せた。
【住所】4 Souk El-Tawfikiyya St, 4th floor, Downtown, Cairo
【料金】40ポンド(女6人ドミトリー・エアコン)
【設備】Wi-fi、キッチン、朝食付き
【URL】http://www.venicehosokawaya.net/
【評価】★★★★☆