メキシコシティを出発したのは定刻をすぎての夜10時すぎ。
オアハカに着いたのは、ちょうどその7時間後。
まだ外は暗く、ターミナルではなく街の隅に降ろされた。
どこにいるのかもわからないので、タクシーを使うことにした。
メーターのあるタクシーはないようだったので、
住所を見せて、言われた値(40ペソ)で宿に向かってもらった。
「メキシコシティからのバスは早朝に着くことを、
オアハカの宿の人は知っているから、朝でも宿に入れてくれる」
との情報を聞いていたのに、なぜかホテルには柵がかかっており、
入ることができなさそう。
とりあえず、入り口付近をウロウロしていると、
インターフォンをみつけた。
鳴らしてみると、奥の方からスタッフが出てくるのが見えた。
助かった。
早く横になりたくて、ベッドに入るとすぐに眠った。
4時間くらい寝ると目が覚めて、
とにかく次の移動のバスチケットを買いに行こうと思った。
レセプションで地図をもらった。
「まず、バスのチケットを買いに行こうと思うんだけど……」。
そう言うと、宿のお兄さんが、
「まずは、ごはんじゃない?」
と言う。
まったくもってその通りなので、どこで食べたらいいか聞いた。
「美味しいレストランはいろいろあるけど、
市場で食べた方が安いし、伝統料理も食べることができるよ」。
お兄さんがそう言うので、アドバイスに従い市場を目指すことにした。
宿はカテドラルの近く。
カテドラルの前がソカロになっていて、
その横の道を南に歩くと、
ベニート・フアレス市場とベイン・デ・デノビエンブレ市場の2つが連なる。
オアハカはオアハカ州の州都で、
オアハカ州は先住民人口の比率が一番高い州。
ベニート・フアレス市場には、伝統衣装や民芸品などが並べられていて、
その色鮮やかさは見ているだけで楽しい。
また、オアハカで飲まれているお酒
メスカル(マゲイというユリ科の植物から作られる蒸留酒)や、
特産のケシィージョ(チーズ)なども売られていて、
できることならゆっくりと堪能したいのだけど余裕がなさそう。
南側にあるベイン・デ・デノビエンブレ市場の方には、
食堂がたくさんある。
とにかく美味しいものが食べたくて、食堂周りをうろうろ一周した。
モーレ(チョコレートソース)料理や、チョコラテ(カカオドリンク)、
トラジュダス(大きなトルティージャに肉やチーズなどを載せて焼いたもの)
などオアハカ伝統料理を扱うお店が多数あり。
しかしまだ朝なので、ウエボス・ランチェロスを頼むことにした。
トルティージャの上にソースのかかった目玉焼きが載せられている。
それに、ハマイカ(ハイビスカスティー)を飲んだ。
なかなかよい朝食だ。
それから両替を済ませると、路線バスに乗って、
ADO社のバスターミナルに向かった。
カンクン行きのチケットを買いたいと言うと、
日曜日しか出ていないとのこと。
それなら、途中のビジャエルモッサはどうか聞いてみると、
明日はどの便ももう満席らしく、明後日の便を同じく満席。
仕方ないので明々後日のチケットを取ってもらうことにした。
出発がかなり伸びてしまうことになる。
一気に駆け抜けようと思って気合いを入れていたのが、
それがなくなり一気に疲れが出て来て、宿に戻ると昼寝をした。
起きたら夕方だった。
夕暮れの街を歩いた。
ベイン・デ・デノビエンブレ市場でモーレ・ネグロを食べた。
グアナファトで食べたものよりも色が黒く、少し美味しい気がした。
その夜はこれからの旅のルートを練り直した。
せっかくビジャエルモサを経由するんだから、
パレンケにも寄ってみよう。
パレンケからカンクンまでのバスが出るまでに一気に見てしまえばいい。
オアハカ近郊には、サポテカという独特の文明を誇った
モンテアルバン遺跡を見ることができるが、
遺跡ばかり見るのも飽きてしまうので、
やめておこうという結論に達した。
翌日は朝から、ベイン・デ・デノビエンブレ市場でトラジュダスを食べた。
トマトとアボカドが載っていてとても美味しい。
そのままソカロまで歩き、北へ向かうと、警察官がたくさんいて、
道路が塞がれていた。
その前には、何かが書かれた紙を持った人々がたくさんいる。
何事なのだろうか。
5 de MAYO通りは伝統衣装や民芸品を扱う少し高級なショップが多く、
どれもクオリティが高い。
中でも「MARO」は、いろんな民族の衣装が集まっていて、
ひとつワンピースでも、と思ったが本当に納得のいくものをみつけるには、
後1時間くらいは悩みそうだったので諦めることにした。
そのまま、サンドミンゴ教会まで歩いた。
教会の前には、絵を描く子供たちがたくさんいた。
子供たちが描く絵は独創的で、やはり絵にもお国柄が出る。
その近くには、先ほどの通りより
もっともっとクオリティの高い民芸品店がある。
かなりのお値段だけど、品質の高さ、デザインの良さ、
どれをとっても一流品だ。
ソカロからサンドミンゴ教会までのあたりが、歴史地区だ。
モンテアルバン遺跡とともに、世界遺産に登録されている。
サンドミンゴ教会は、1575年から約1世紀かけて建造された、
メキシコ風バロック建築の教会。
2つの鐘楼を持つ気品ある外観もさることながら、
内部の黄金の壁や装飾は、ものすごく繊細で美しく、
見応えのある建物だ。
教会を出ると、教会の周りをぐるっとまわって、
西の方も歩いた。
日中のオアハカは彩度の高い色で溢れていて、
そこに身を置くだけで中米に来た実感がわき、
いつか行ってみたいと思っていたその日が来たことに、
幸せを感じることができる。
一度宿に戻ることにした。
宿に戻ると、このクリスマスシーズンに次のバスに乗れるのか心配になり、
ネットでいろいろと調べた。
ADO社のホームページを見ると、どうやら予約できそうだったので、
予約し予約票をPDFにした。
カード払いは少し怖い気がしたので、
OXXO(メキシコのコンビニエンスストア)で支払うためだ。
その支払いをするためには、お金が足りなかったので、
銀行に行って、キャッシングした。
それが、私にとって生まれて初めてのキャッシングだった。
無事キャッシングできて、うれしくてベイン・デ・デノビエンブレ市場に
チョコラテを飲みに行った。
チョコラテは一緒に出されるパンを浸して飲むのがオアハカ流。
それから、OXXOに行ってスマホに入れておいたバスの予約票を見せた。
すると、なぜできないのか理由はスペイン語がわからず理解できなかったが、
とにかくそのOXXOでは支払うことができないとのこと。
予約票にそういうこともあると書かれていたので、諦めた。
仕方ないので、他にOXXOがないか宿の人に聞いてそこへ向かった。
「ソカロはどっちですか?」
その途中、日本人に道を尋ねられた。
今朝バスから宿に直行し、位置関係が把握できていないらしい。
ソカロまでの道を教えてあげた。
彼女は、メキシコ人の名前を漢字で書いてあげるという、
大道芸の一種で旅の資金を稼いでいらしく、
これから仕事に向かうんだそう。
「クリスマスはどこで過ごすの?」と聞かれた。
たぶん、ほとんどがバスの中で、パレンケの遺跡を見て、またバス。
「これからアメリカ人、オランダ人、イスラエル人……の友達が、
オアハカに集まって、クリスマスパーティーするんだけど……。
一緒にどうかしら?」
と言われたけれど、もうチケットは購入済み。
自分のクリスマスの過ごし方がなんだか寂しすぎると思えてきた。
でも、よく考えてみると、
ユーラシア横断したとき、そうやって少しずつ延ばし延ばしに
旅をしていたから2年半もかかってしまったのだ。
あの時だって、ほとんど沈没していないのだから。
この旅は長引かせてはいけない。
そのまま教えてらった場所に行くと、OXXOはなかった。
仕方なく引き返すと帰り道、ADO社の予約センターをみつけた。
そこで、予約票の支払いについて聞いたら、この街のOXXOは、
ADO社の支払いができるところがないそう。
その予約票は破棄して、新しいチケットをそこで買い直した。
早割が適用され、少し安くなった。
そもそもバスターミナルまで行かなくとも、こんな近くで買えたのだ。
翌朝、目が覚めると、宿の中庭でみかんを食べながら地図をながめた。
遠くでアコーディオンのメロディーが聞こえる。
いつも宿の近くで、短いメロディーを繰り返し奏でる物乞いがいる。
今日はアバストス中央市場に行ってみよう。
ベニート・フアレスやベイン・デ・デノビエンブレは
どちらかと言うと観光客向け市場で、
アバストス中央市場は地元の人向けの市場だ。
地図を見ながら、市場を目指すがそれらしきものが見当たらない。
ウロウロとしながら、その辺りを歩く。
小さな商店の前を通って、しばらく歩くと、
青テントの雑多な野菜市が見えて来た。
それがアバストス中央市場なのかわからず、近辺をウロついた。
アバストス中央市場内で朝食にしようと思っていたので、
当てが外れてしまった。
空腹に耐えきれず、近くにあったお店で食べることにした。
外国人観光客に全く慣れていない女の人に、
身振り手振りでタコスを注文することができた。
チョリソーとチーズがたっぷり入っていて、とても美味しかった。
それから、近くの野菜市をウロウロしていると、
その奥が巨大な市場とつながっていることがわかった。
アバストス中央市場にいるらしい。
小さな通路に所狭しと商店が並ぶお店。
八百屋に香辛料屋、日用品を売る店、食材を売る店、花屋、雑貨屋……。
雑多な通路は、荷車が何台もあちこちからやって来て渋滞を起こす。
三つ編みをしたお母さんは、赤ちゃんに乳をやりながら買い物。
テンガロンハットをかぶったおじさんは、熱心に商売をする。
商売をするお母さんの横で、子供たちは駄菓子屋の前のゲームで遊ぶ。
いろんな民族が入り交じり、強い個性を放っている。
私は、どこの国でも
あふれる生活臭と力強い生命力を感じる市場が大好きだ。
何時間いても飽きない。
その日、アバストス中央市場には2回行った。
夕方、昨日の道ばたで会った女の人がいないか、
ソカロ周辺を歩いてみたがみつけることができなかった。
夜になると、歴史地区にはものすごいすごい人が集まった。
明日はクリスマスイブ、人々は高揚しお祭りモードだ。
ソカロから、歴史地区を散歩し、市場近くの露店で買い食いして、
少しお祭り気分を味わい、帰った。
思いがけず、長居することになったオアハカだけど、
多くの旅行者を魅了するように、私もオアハカが好きになった。
さて、明日からは大移動だ。
【住所】Avenida Hidalgo 507-B, Centro Oaxaca
【料金】120ぺソ(10人ミックスドミトリー)
【設備】Wi-fi、キッチン
【評価】★★★☆☆
バスで7時間。480km。200ペソ。
(おそらくこのチケットが一番安い。ペンションアミーゴの近く。
革命記念塔の裏の露店で買うことができる)