22時クエンカを出発したバスは、翌2時半に国境に到着。
イミグレーションは両国がひとつになっていて、
エクアドル側のレーンで出国スタンプをもらうと、
隣のペルー側のレーンで入国スタンプをもらい、完了。
入出国どちらもカードの記入のみ。
3時すぎに再度出発し、気が付くと景色はガラッと変わって荒野の中にいた。
時々、見える家ではとても素朴な暮らしを営んでいる様子。
しばらくすると、小さい街に入った。
8時、ピウラに到着。
また、バスは走り出す。
同じような荒野の景色が続き、ピウラを出てから3時間でチクラヨに着いた。
チクラヨは、なかなか大きな街だった。
バスターミナルを出ると、とりあえず、ATMを探しキャッシングを済ませる。
そして、腹ごしらえ。
それにしても、暑い。
標高の高いエクアドルの都市にいたので、冬服のままだ。
バスターミナルで、リマの文字を見てから、
リマに早く行きたいという思いが芽生えていた。
この街には泊まらなくていいかな……なんて考えながら、
とりあえずターミナルに戻る。
冷たいコーラを飲みながら、一服。
目線の先に荷物を置く。
……置いているつもりだった。
少し、目を離したかもしれない。
考え事に集中しすぎて、周りに意識がいっていなかったのか。
気が付くと、小さい方のバッグがなかった。
何が起きたのかわからなかった。
しかし、バッグはない。
一瞬の出来事だった。
周りにいた警備員や、近くのカウンターに行って
あそこに置いていたバッグはないか聞く。
案の定、何のことだというような反応。
昨日、どういう経緯で書いたかも思い出せない旅人から聞いたメモの中に
「ペルー盗難」と書いてあるのをみつけたのを思い出す。
少しずつ事実を受け止めだした。
とりあえず、コーラを買った店や昼食をとったレストランに戻り、
バッグはないか聞いてみるが案の定ない。
なんてったって、バスターミナルまでバッグを持ってきた記憶がある。
こういう記憶が覆ることは、経験上ほとんどない。
幸いにも、旅を続けるのに困るような貴重品は一切入っていなかった。
ただ、絶対なくしたくない手帳や、ダウンジャケットとフリースジャケット、
その他スペイン語の本やワイヤーロック等ないと困るものが入っていた。
南極に行くために用意していた上着がすべてなくなってしまった。
この先、もうスペイン語を勉強することもできない。
いろんなことが頭を巡る。
日本に帰りたい、と思った。
しかし、落ち込んでいても何も解決されない。
紛失届けを出さないと。
警備員に警察の場所を聞き、向かった。
教えてもらった場所には大きな警察署があった。
英語を話せる人はもちろんおらず。
係の人の知人が英語を話せるからと、電話をかけてくれ、
どうにか事態を把握してもらうに至った。
待たされ続け、やってきた警察官にパトカーに乗せられる。
どこへ行くのかわからなかった。
パトカーの中からチクラヨの街を見た。
この街、嫌いになってしまいそうだ。
着いたのは、ツーリストポリス。
そこで、手続きができるとパトカーを放り出された。
ツーリストポリスなら英語ができるのかと思いきや、できないらしい。
そこへチリ人のカップルが道を尋ねにやって来た。
そのチリ人が英語を話せることがわかると、通訳してもらい、
そこの警察官にも事情をわかってもらえた。
「隣のオフィスの人が助けてくれるから、
ちょっと待っていてって言っているわ」。
そう言うので、しばらく待っていると、男の人がやって来た。
隣はツーリストインフォメーションらしい。
チリ人カップルと警察官は、何を話しているのか随分と話し込んでいた。
途中、別の警察署で手続きをしろと言われ、そこに向かうが、
そこの警察署では手続きできないから、とまた戻る。
たらい回し。
ツーリストポリスの警察官は、かなりの時間チリ人カップルと話込んだ。
カップルもその長い話に嫌気が差しているようだった。
その間に、ツーリストインフォメーションのスタッフに、
今いる場所やチクラヨのことなどを聞いた。
チリ人カップルとの話が終わるとようやく、私の番。
ツーリストインフォメーションのスタッフに通訳してもらいながら、
事情聴取に入った。
よく、覚えていたと思うのは、
バス会社の名前が「American Express Peru」だったということ。
警察官は、私から聞いた話しを大きな帳簿に書き留めていった。
それが終わると、今度は証書作成。
無事に紛失届けが完了した。
ツーリストインフォメーションのスタッフは、
リマ行きのバスターミナルまで送ってくれて、
チケットを買うまで付き合ってくれた。
「こんなことになってごめんね」。
盗難のある街だということを謝ってもくれた。
ひとつ言えるのは、チクラヨは、とてもいい人もいる街だということ。
私の方も、たぶん少し気が緩んでいたに違いない警戒心を
もう一度高めようと心に誓った。
もう何もしたくない気分だったけど、バスの出発まで時間があったので、
荷物をターミナルに預けて、街を歩いてみることにした。
その前に、カフェで少し休憩。
本来なら、日本のテレビ局が発見したシカン遺跡がこの街から簡単に行ける
ということだったので、フラッと見に行こうかとも考えていたのだけど、
もうそんな気力もない。
ツーリストインフォメーションのスタッフに
勧められたカテドラルの周辺に行ってみることにした。
カテドラルの前のアルマス広場まで出ると、
さすがに街の中心とだけあって、活気があった。
チクラヨの印象が少し変わった。
広場の周辺をフラッと歩いて、バスターミナルに戻った。
発車30分前、もう一度、バッグがなくなったバス会社に行ってみた。
もちろん、バッグはあるわけがない。
18時半、バスはリマに向けて発車した。
とても乗り心地のよいバスで、ごはんまで出され、
その後はビンゴ大会まであった。
寝る前、なくなった手帳を思って少しクヨクヨした。
バス(SUPER SEMERIA社)で12時間。725km。20ドル。