「今の時期、ヌーがマサイマラに移動してきているから、
サファリに行くならマサイマラがいいよ」。
マサイマラ国立公園は、ケニアの南西タンザニア国境付近にある。
その南にセレンゲティ国立公園があって、
その南にンゴロンゴロ国立公園がある。
サファリは、セレンゲティでしようと思っていたので、
ナイロビは早々に通過しようと思っていたのだが。
同じ宿だったあやちゃんに、アドバイスをもらって、
マサイマラでサファリをすることに決めた。
8時半宿を出発し、ケンジさんと一緒に日産のワゴン車に乗り込んだ。
車の中からだと、安心してナイロビの街を見ることができる。
街の外れにあるガソリンスタンドで、
フランス人女性・コンスタンスを乗せ、3人で出発した。
ナイロビの街を出ると、アフリカらしい景色の平野を走る。
後でコンスタンスが言っていたのだが、このときドライバー兼ガイドの
ジェームスはウトウトと居眠り運転をしていたらしい。
あまりに蛇行運転するものだから、後ろの車にクラクションを鳴らされたほど
だったようだが、私もその頃ウトウト居眠り中だったので全く気付かず。
しばらくすると、ジェームスに起こされた。
窓の外を眺めると、山間から平原が見渡せた。
これは、グレート・リフト・バレー(大地溝帯)。
アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な谷で、プレート境界の1つだ。
正断層で地面が割れ、落差100mを超える急な崖が随所にあるのだ。
この先数千年後には、この谷を境に大陸が別れるそう。
車を停め、しばし景色を楽しむ。
私たちの乗っている車と同じようなワゴン車のツアーがたくさんやって来た。
お腹が空いて焼きトウモロコシを買って食べた。
エチオピアにもよく売られていた焼きトウモロコシだが、初めて食べる。
固くて甘みがなく、美味しくなかった。
再び、車を出発させると、一本道をひたすら南西に向かって走る。
時々、小さな街を通りすぎた。
アフリカの空は、雲が立体的。
色は日本と同じように薄い色をしている。
ぼやけた色の草木、遠くには山々が見える。
変わらない景色にすぐに飽きて、熟睡してしまった。
NAROKという小さな町で停車。
レストランに入ると、ランチタイム。
ビュッフェスタイルで、メニューもなかなか悪くなかった。
タスカービールも注文。
悪くない始まりだ。
その町から進路が変わり、南に進んだ。
マサイ族の赤い布を纏った男が、牛を連れているのが見えた。
その先には、いくつか町がありマサイ族が生活しているようだった。
ケニアは、アフリカ北部の国より、
コンクリートでできた建物が建つ、町と言える町が多い。
顔の黒いサバンナモンキーも目撃した。
途中、ランドクルーザーに抜かされた。
そこからの道はかなり凹凸の激しい道だった。
横転しそうな角度での走行。
こんな車で大丈夫かなと思っていたら、案の定、
同じようなワゴン車の前の車のタイヤがパンクした。
一旦、その車を助けるために、停車した。
ドライバーも慣れているらしく、あっという間にタイヤの交換が済んだ。
それからまた出発したかと思ったら、ジェームスに電話がかかってきた。
後ろの車もパンクしたらしい。
そのまま、今来た道を戻り、パンクした車を助ける。
結局、その車は調子が悪いらしく、
その車に乗っていた人々が私たちの車に移ってきた。
予定より少し遅れて、15時半頃キャンプサイトに着いた。
部屋に案内される。
半分レンガ造り、半分テントの宿。
トイレとシャワーも一応ある。
が、シャワーの水はあまり熱くないという事前情報があったので、
シャワーは諦めることにした。
アフリカの旅はシャワーを諦めることが多いので、
こういうことはもう慣れてしまった。
部屋が決まると、ダイニングコーナーでコーヒーを飲んだ。
しばらくすると、ジェームスが戻ってきて、
いざ国立公園内へのサファリに向けて3人で出発した。
先ほどのワゴン車のルーフは、サファリを楽しむために開かれていた。
そこから、国立公園の入り口まではそんなに遠くない。
私たちの泊まっているキャンプサイトの辺りは、
他にもいくつかキャンプサイトが集まっているようだった。
国立公園のゲートの前に到着するとしばらく待たされた。
許可証を得るためだ。
車で待っていると、マサイ族の女性が土産物を持って売りに来る。
観光地、マサイマラは潤っているのがわかった。
エチオピア南部の少数民族たちは、
飲んでいるペットボトルの水さえ欲しがった。
いや、飲み干したペットボトルでさえ欲しがった。
彼らはただ物価より高額な土産を売るだけ。
何か欲しがることはない。
許可証を取るとさっそく出発。
結局、16時半になった。
ゲートを抜けると、いきなりヌーに出くわした。
ヌーの顔といったら不細工で、見ているだけでちょっと笑える。
それからシマウマ。
シマウマの模様って自然の中で見るととても不思議だった。
それから、セグロジャッカルやトピなど見たことのない動物を
次々と見ることができた。
動物たちがこっちを見ていることに興奮した。
捕食された後の残骸も所々にあった。
空には雲がまだらに掛かっていて、
その隙間から神々しく太陽の光が差している。
アフリカの大地の偉大さにただただ感動した。
「あそこ、ライオンがいるんじゃないかしら?」
コンスタンスが指を指す方向には、サファリの車が集まっていた。
そこに行ってもらうと、岩場に
お母さんライオンが2頭と、赤ちゃんライオンが6頭眠っていた。
食べられるものと、食べるものがこんなに近くにいるものなんだと少し驚いた。
キャンプサイトからもそう遠くない。
ガイドに聞くと、やっぱりたまにキャンプサイトまで
ライオンがやって来ることもあるとか。
国立公園といっても柵があるわけではない。
当然といったら当然のことだけど、ちょっと怖くもあった。
夕暮れのサファリはあっという間に終わった。
マサイマラのサファリは、
陽が昇ってから沈むまでしかできないというルールがある。
陽が沈んでいく空の色の変化を、車の中から楽しんだ。
夜は、コンスタンスとお互いの国の話なんかをしながら、
タスカービールを飲み、晩ごはんを楽しんだ。
目が覚めると、コンスタンスはいなかった。
彼女は明日パリに帰る便に乗るため、ツアーは2日間しか参加できないのだ。
今日は別のグループと一緒にサファリに出かけた。
朝食を食べに行って、しばらくゆっくりすると、ジェームスが現れた。
7時半頃出発した。
今日は車内2人だけ。
他の車は5人も6人も乗っている車もあるので、私たちはラッキーだ。
ジェームスは、サファリの経験も数多く、
勘が冴えていて、機転も利くし、要領もよかった。
サファリは、ドライバーの良し悪しでどれくらい動物が見られるのか
全然違ってくるので、こればかりは運次第。
今日も国立公園内にはヌーが多い。
シマウマがいてジャッカルがいて、アンテロープがいる。
バッファローは前から見ると、
昔のヨーロッパの貴族の髪型みたいでなんだかおもしろい。
頭や身体に鳥を乗せて、仲良しなんだな、とほっこりした気分になったが、
その鳥はウシツツキといって、
クチバシで皮膚を突き肉を食べる鳥だと知り、衝撃を受けた。
今日は、マサイマラ国立公園内の西にあるマラ川を目指して
1日中サファリを楽しめる日だ。
しばらく走ると、サファリの車が集まるところがあった。
近づくと、立て髪が凛々しい雄ライオンがいた。
雌ライオンに比べ、雄ライオンはなかなか見ることができないと
聞いていたので、すごく興奮した。
しかし、万が一雄ライオンに飛び掛かられたら、かなり危険な車ではある。
少し怖かったが、雄ライオンはサファリの車に慣れているのか、
マイペースにどこかに歩いて行ってしまった。
その近くには、その雄ライオンの番いの雌ライオンがいた。
それから像の群れも見た。
ヌーの姿はどこにでもいる。
シマウマは、ヌーと一緒に行動することが多いようだ。
草食動物であるヌーとシマウマは大群を作って行動し、
肉食動物からその身を守る習性がある。
ヘビクイワシはその名の通りヘビを食べるワシ。
ヌーの群れの手前に現れた。
ハゲワシが何かの肉を食べていた。
ジェームスが、近くにライオンがいるはずだと言う。
ライオンが捕らえた獲物を食べているらしい。
ジェームスの言う通り、少し走ると、木陰にライオンが昼寝をしていた。
またしばらく行くと、今度はダチョウの夫婦がいた。
雌の身体はピンク色をしていた。
時速50キロは出るというダチョウの走っているところを見たかったが、
そう都合よくいくわけもない。
よく揺れる車内で少しウトウトとしていると、
ジェームスがチーターがいると教えてくれた。
チーターもまたなかなか見ることのできない動物の一種。
興奮して、外を見るがどこにいるのかわからなかった。
遠くにある木の影にいるんだと教えてくれるが、
双眼鏡もないのでさっぱりわからなかった。
チーターが動き出すのを待つが、なかなか動き出さず、
結局こちらの車で近づくことになった。
木の裏側に行くと、チーターの家族がいるのが見えた。
動きの早いチーターなので、襲われると危ないと、
その姿を確認するとさっさと退散した。
次に出くわしたのは、マサイキリンの家族。
子どもの頃は模様が薄いらしい。
4人家族が通り過ぎるのをじっと見守った。
少し背の高い草が生えているところには、イボイノシシを見かけた。
エランドという動物が走り去るのも見た。
次々に現れる動物に興奮しまくった。
お昼頃になると、ヌーの大群に出くわした。
その数は圧巻だ。
一体何キロ続いているのだろう。
相当な距離で、ヌーが行列をなしていた。
先頭を歩くヌーのリーダーが走り出すと、後からついてくるヌーも走り出した。
タンザニアから北上してきたヌーの群れは、
このままマヌ川を渡ってさらに先へと進んで行くのだ。
ヌーは草を求めて、セレンゲティからマサイマラを行ったり来たりしている。
マラ川に近づくと、また別の大群に出くわした。
みんな力強い足取りでマラ川を目指して走っていた。
それもまたものすごい数。
マラ川の手前の広場で群れは止まった。
マラ川を渡るかどうするか、躊躇しているらしかった。
私たちは、その近くに車を停めてその様子を伺った。
「勇気のあるやつが渡り出せば後が続くんだ」とジェームスが言う。
川には、ワニがいるので食べられてしまう危険がある。
しばらくすると、ヌーの群れが唸りだした。
勇気を振り絞っているらしい。
群れは川の手前を行ったり来たりした。
草影の奥で、川の寸前まで歩を進めている気配はあった。
勇気のあるヌーの第一歩を待った。
しかし、なかなか川渡りが始まらず、
途中トイレ休憩を挟み、少しその場を離れた。
その間に、その瞬間がやって来てしまったらしい。
ジェームスは慌てて、車を引き返した。
しかし、ほとんどの群れはすでに川の向こうにいて、
残りの3頭が川を渡るところしか見れなかった。
後で他の車に乗っていた女の子に、このシーンのビデオを
見せてもらったのだが、ヌーは太い行列を作って一気に川を渡るようだ。
あんなにたくさんいたので、時間をかけて渡るのかと思ったけど、
ものすごいスピードで一気に渡っていた。
その時間は、ほんの5分から10分程度だったそうだ。
ワニに食べられたヌーはいなかったと聞いて安心した。
ビデオで見るだけでも感動したので、ちゃんと見ることができていたら
きっとものすごく感動しただろう。
ちょっと残念だった。
それから車の中で、昼食にした。
昼食の後、マラ川に近づくと、カバがいた。
夜行性のカバは頭と胴体の一部だけを浮かべて、川の中でじっとしていた。
その近くにナイルワニも何匹かいた。
川沿いにまた別のヌーの群れがいて、川を渡らないかしばらく待ってみたが、
結局見ることはできなかった。
そこから、キャンプに引き返すことになった。
ジェームスは最後の最後まで、眼光を光らせ、
動物を探しながら運転してくれる。
サファリのドライバーという仕事もなかなか大変な仕事だ。
その後ろで眠気と戦いながら動物を鑑賞した。
チーターの赤ちゃんみたいなサーバルキャットもみつけた。
ヌーやシマウマは本当にどこにでもいる。
草むらの中にはイボイノシシ。
ダチョウはいつも番いで行動するらしい。
午後の温かい光に包まれたマサイキリンが、木の影からこちらを見ていた。
17時、キャンプサイトに戻った。
それから、マサイ族の村に向かう。
赤い布を纏ったマサイ族の男について、近くの村に行った。
これは、ツアーに10ドル追加して付けたオプションだ。
目と鼻の先ほどのキャンプサイトから毎日毎日、観光客が向かうマサイ族の村。
バンナ族の村に行ったばかりなので、観光地感をものすごく感じてしまう。
村に入ると、マサイ族の男たちが歓迎の歌とジャンプで迎えてくれた。
マサイジャンプはさすがに高かった。
それから、火を起こすところを見た。
もっともっと奥地では、リアルにこういう生活をしている人が
いっぱいいるんだろうなと想像するとワクワクする。
その後は村の中のひとつの家に入った。
蚊除け対策で窓が小さく、薄暗い家の中では台所が中央にあり、
火が点けられていた。
煙が充満し、目が痛かった。
小さく見えて、中は部屋が6つもある。
生きている牛の血を取って飲むマサイ族。
マサイ族は、ライオンを獲ったらみんなで祭りを開くそう。
土産用に売られたライオンの歯のペンダントを買った。
女性たちの歌と踊りを見て、土産コーナーに連れて行かれ、
1時間ほどでキャンプサイトに戻った。
お腹がペコペコだった。
ディナーもなかなか。
その日の夜は部屋は1人で独占した。
翌朝、空が白み始めた6時すぎ、出発した。
国立公園内に入ると、ヌーたちがすでに起きて活動をしているのが見えた。
トピやインパラが駆け回る。
電気のない自然の中では、太陽が沈めば、ずっと漆黒の闇の中。
暗くなると休み始める動物がいて、同時に暗くなると活動をし出す動物もいる。
動物たちのそんな命の物語が、この自然の中で
繰り広げられているのかと思うとなんだか感慨深い。
少し走ると、牛の群れに出くわした。
牛の群れ?……牛は人間が飼うものである。
そう、牛の群れの後ろにはマサイ族の男がいた。
マサイ族は、ここに広がる自然の中に暮らす。
タンザニア側にもいる。
彼らにとって、そこは恐らくマサイマラでもンゴロンゴロでもセレンゲティでも
どちらでもいいのかもしれない。
国境だって後から決まったものだ。
彼らはパスポートなしで両国間を行き来する。
しばらくすると、東の空が赤くなり、そのままいろんな色に変わった。
柱サボテンのユーフォルビアインゲンスや、
アカシアの木がアフリカらしい影を作り出した。
朝日が昇ると、またジェームスが動物を探してくれた。
一昨日見たライオンの母子たちが木陰で眠るところに着いた。
それからゾウ、キリンと朝からいろんな動物が見えた。
折り返してキャンプサイトに向かう途中、
ヌーの群れがいて何だか変な動きをしていた。
その先に向かうと、チーターの姿があった。
チーターはヌーの群れを狙っているようだった。
ヌーの群れはチーターから離れようとしているようだった。
最後尾の3頭が後ろを振り返り、仲間を見守りながら進んで行く。
チーターの奥から3頭のヌーが現れると、群れの中から1頭
が彼らを迎えに行き、そして合流した。
そうやって、仲間を多くし協力し合い、肉食動物に
殺られないようにして生きているのだ。
結局チーターは、狩るのを諦めたらしい。
それを見守ると、宿に戻った。
宿の庭にはブーゲンビレアの花が鮮やかに彩っていた。
サファリがこんなに感動するものだとは思っていなかった。
朝食をとった後、ナイロビへと戻った。
【設備】Wi-fi
【評価】★★★★☆
2泊3日のツアーが300$、+マサイ族の村訪問10$